嫉妬対談

テーブルをへだてて、男女がソファに腰かけている。

女「ちょっと、よその男と飲んでくるわ」

男「なにそれ? なんで?」

女「たまにはええやん」

男「そらそうや。でも、なんか引っ掛かるやん」

女「なにが?」

男「男と飲みに行くってところが」

女「そう?」

男はぶぜんとした表情だが、女はすずしい顔だ。

男「うーん。そしたら、おれがよその女と飲みに行くのはええんか?」

女「なにもないんなら、ええんちゃう?」

男「そうか」

女「そういうの、束縛されるような関係ちゃうし、ちゃんと付き合ってるわけでもないのに、なんでそんなこと言われなアカンの?」

女はどこかトゲのある含みを持たせながら、男に詰め寄った。

男「うーん、そらでも、嫉妬するやろ?」

女「その人となにかあると思ってるの?」

男「あったらイヤやな、とは思うよな」

女「なにもないで」

男「そう言うけど、結局それを信じるしかないやん」

女「そうやな」

男「でも、実際にはどうかわからんやん」

女「信じられへんの?」

男「もし仮になにかあったとしても、問い詰められたら、なにもなかったって言うやろ?」

女「そうやな」

男「そしたら、その人と何があったかということに関しては、ブラックボックスになるやんか」

女「でも、さっきも言うたけど、付き合ってるわけでもないのに、なんでごちゃごちゃ言われなあかんの?」

男がため息をついた。

男「……そうやな。そうなるよな」

女「なにそれ?」

男「結局男と飲みに行くことをおれにわざわざ言う時点で、おれがこういう気持ちになることを、きみは斟酌せえへんし、今後もそうやって自由にふるまうんやろ?」

女「別にあんたの気持ちがわからんわけちゃうけど、なんでそんなわかったようなこと言われんとあかんの?」

男「気持ちがわかるんやったら、人をわざわざ嫉妬させるようなことをしないくらいのことが、なんででけへんねん」

女「そういうの、わたしの自由やろ?」

男「……わかった。もうええよ。何をしてもかまへん。その人となにもなくても、……いや、別になにかあってもかまへん」

女「……」

男「そのかわり、もう話しかけんといて。おれからもきみにはもう話しかけん。嫉妬するのは、つかれるねん。そういうしんどいことをされるの、もういらんわ」

女「それはちがうで!」

女は叫んだが、すでに男の輪郭はぼんやり煙のように崩れていた。

女「……あんたはずっと、こんなふうには話しかけてくれへんかったやん」

男「……」

女「ちょっとした行き違いがあってからずっと、ほんとはお互いにはなにも話してなかったやんか」

男「……」

女「こんな話もほんとはしてない。ずっとあんたは、黙ってたやんか」

男「……」

女「ずっと黙って、いきなり線が切れたように怒るんやんか」

男「……」

女「わたしもひねくれたことしてるけど、お互いに、近寄ってくれるのを待ってただけって意味なら、どっちもどっちちゃうん?」

男「……」

女「わたしに対して無関心やから、気を惹くようなことをわざとやってたって、なんで気づいてくれへんの?」

男「……」

女「あんたはわたしに斟酌しろというけど、こういうしぐさでしかアプローチできなかったということを、どうしてあんたは斟酌してくれへんの?」

男「……」

女「わたしは、そばにいてくれもしないあんたのために、自由にふるまうこともやめなあかんの?」

男「……」

女「こんなことでわたしたちは、終わってしまうん!?」

女が叫んで、立ち上がった。もうソファに男の姿はなかった。女が力なくうなだれると、彼女も煙となって消えた。

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