まんじゅうきらい

男は交番の中で、警官に取り調べられている。男は本来気の強い男だったが、警察権力には弱いとみえて、もうすっかり憔悴しきっていた。取り調べをしている警官は高圧的な口調で話している。

「……結局まとめると、おたくは、他愛なく怖いものを言い合っていた仲間をバカにして、自分はそれとなくまんじゅうがこわいとウソをついた。それでふだんから態度のわるいおたくをこわがらせてやろうとした仲間が金を出し合いまんじゅうを集めて差し出したが、それをこわいこわいと言いながら食べてしまう。まんじゅうを食われた仲間が驚いてその行動をとがめると、最後に言うに事欠いて、次は熱い茶がこわいなどと言ったわけだ」

「……はい」

「あのね、おたく、いい年して良心がとがめないかい?」

「いや、あの、そのときはみんなおもしろがってくれるだろうと思ったんです……」

とつぜん警官が激高した。

「そんなこと言ったってね! 実際の被害が出てるじゃないの!? 食っちまったまんじゅうどうするの!? おたくの仲間のひとりが、あれは明確な悪意があってやったことだといって、うちに相談にきてるんだよ。おたく、仲間に金は返したのかい?」

「……いえ、まだ」

「なに考えてんだよまったく……それで悪意はあったの? なかったの?」

「いや、まあ悪意があったといえばあったんでしょうけど、そんな……」

「あったんだね!? 悪意、あったんだね!?」

「いや、まあ、その、……はい」

「はい確定ー! 死刑確定ー!!」

「えええ!! なんで!? そんな!!」

「ひっひっひ。冗談だよお」

警官は醜悪な笑顔を浮かべながら男に顔を近づけた。

「おたくもあらかた、こんな感じでちょっとした冗談のつもりだったんじゃないのかい。おれもこれは冗談のつもりなんだよ。でもな、おたくは今おれの行動が不愉快だと思うが、仲間も同じようにおたくに不愉快な思いをしたんだぜ」

「いやだって、それはわたしに嫌がらせをしようとした連中がまんじゅうを用意したんですよ? 悪意というのなら向こうにだって非があるはずです」

「そんなことは、どうだっていいんだよ」

「え?」

「おたくはまんじゅうが怖いといった時点で、仲間をはめてやろうと目論んでいたわけだろう」

「……」

「おれはおたくがこざかしい頓智をきかせて、仲間を怖がりだなんだとおちょくって憎しみをあおった挙句、金を出しあわせてまでまんじゅうを買わせて、それをほんとうに食ってしまった、その腐れ切った泥棒根性が気に入らないと言ってるんだ!」

「え、なにそれ。だってあのまんじゅうはわたしにくれるといってみんなが渡してきたものじゃないですか。結局、感情論ですか?」

「なんだと!! 盗人猛々しいとはまったくこのことだな。道理でまんじゅうを勝手に食っちまって、あげく茶までよこせとほざきやがるわけだ! 泥棒らしい論理のすりかえだよ!!」

「いや、論理のすりかえじゃなくて、ほんとうに感情論だから……」

「じゃかましい!!」

「ひいッ!!」


警官からこっぴどく絞り上げられた男は、ともかく逮捕は免れて、交番を出ることができた。

むちゃくちゃな目にあってしまったものだと、くさくさした気分で家路につくと、ちょうどあのときに連中がまんじゅうを買った和菓子屋の前を通った。

「えい、気分のわるい。もうまんじゅうなんか見たくもねえや」

と、店頭に並んでいたまんじゅうをにらみつけて往来にツバを吐いたところで、なんと向こうからさっきの警官が自転車に乗ってやってくるではないか。

「なんだおい!! またおまえか!! 今なにをしたッ!!」

「うわあっ!!」

大急ぎで逃げる男、鬼の形相で追う警官。

とうとう追いつかれて首根っこ捕まれると、男は涙を浮かべながら「まんじゅうきらい!」と叫んだ。

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