しゃべる頭蓋骨

ここはとある樹海である。一度迷い込んだら戻ってくることができないといわれるほど広大な森で、昔から自殺者が絶えないことで有名だ。

ジャーナリストのわたしがそんな鬱蒼とした場所へ足を運んだのはほかでもない。この国に生きて、この国に生きる価値を見失い、死を選んだ自殺者をこの目で見て、ルポルタージュとして世に問うためだ。

この社会を生きる価値があるものにするためにいったいなにをすべきか、彼らの死体から考えるきっかけにしてもらおうと考えたのだ。

森の中を慎重にしばらく歩くと、白骨死体がみつかった。動物に荒らされた跡がある。死体には首がなかったが、すぐにみつかった。

死体の上に木の枝があって、そこに輪っかになったロープがかかっていた。そして頭蓋骨だけが宙に浮いているかのように吊られていたのだ。

首吊りの死体が腐乱していく過程で、動物たちがあわれな自殺者の足や胴を引っ張り合い、そして首の部分を残して地面に落ちたというわけか。

とつぜん、声がした。

「わしが今吊られてるの、栗の木やねんけどな。びっクリしたやろ!! 毎年秋になったらイガグリが落ちてきて、わしの頭に当たってめちゃくちゃびっクリするねん!!」

一瞬、ドキンと心臓が止まった。頭蓋骨がしゃべりだしたのだ。

わたしは生まれて初めて、腰を抜かした。腰を抜かすとはこういうことか。へなへなとへたりこんで、逃げようとするのだがカラダが思うように動かない。

「そない驚かんでええ! もうずっと話し相手もおらなんで、退屈しとったんや。タイクツわり(体育座り)でな!! あ、わし頭しかないから座れへんわ!!」

そうまくしたてると、頭蓋骨はカチカチケタケタと気持ちの悪い笑い声をあげた。

「しかしあんたはなにをしにここへ来たんや。あんたも自殺しにきたんか。やめときやめとき。えーことないで。びーことはあるかもしれんけどな!!」

わたしはこの頭蓋骨の異様な明るさがまたおそろしかったのだが、震える声でじぶんがジャーナリストであること。ここで自殺した人をルポルタージュにして世に問うという目的を伝えた。

「なんや、あんたわしらを見に来たんかいな。ご苦労さんやなあ! ご苦労ご苦労、ゴックローチ! なんつってな!!」

と言ったかと思うと頭蓋骨の目から巨大なゴキブリが這い出てきた。わたしはギャッと悲鳴をあげたが、その様子に頭蓋骨はまたけたたましく笑うのだった。

「いやあ、あんたもそないビビりやのに、ようこんなところへ来たもんやなあ。えーことないで。人間の死体みたいなもん、見たかてえーことあらへん。びーことはあるかもしれへんけど。しーことはどうやろか」

わたしは黙っていたが、この頭蓋骨はさらにまくしたてた。

「しかし、もう帰ったほうがええで。ミイラ取りがミイラになるということわざもある。こんなところで日が暮れたら難儀するさかいな。ここにはイノシシもおるし、クマもおるで。夜になったらうろうろしよるで。わしも夜になったらこわーい姿を見せることになるかもしれん。こんな冗談言うてるのもいまのうちやで。さあ帰り。なにも見んかったことにしたるさかい、帰ってえー記事書くんやで。びー記事書いたらあかんで。わしは生きてる間はろくなことなかったけど、死んだらなにもかもなくなって、気鬱なこともなくなって、えらい明るい気分になってな。生きてる間にこんな気分になりたかったわ。皮肉なもんやな。もう皮も肉もないけどな!!」

頭蓋骨は一気にしゃべりきると、そのままぴたりと黙り込んで、もうなにも言わなかった。

突然森の奥でいっせいにカラスがギャアギャアと鳴きだした。空をみるともう薄暗くなりつつある。

いったいどれだけの時間ここにいたのだろう。わたしは気が動転したまま写真を撮るのもわすれて、転げるようにして逃げ帰った。

その後、わたしが書いたルポルタージュは正直、世に問えるほど売れなかったし、話題にもならなかった。

『シャレコウベはシャレが好き』というタイトルがよくなかったのかもしれない。

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